時の欠片(6)
2008/02/05 公開
──コンコン
夕方になって、ノックの音が聞こえた。
病室に入って来たのは、制服姿の雪菜だった。
「姉ちゃん」
雪菜はニコっと小さく笑顔を浮かべ、
ソッと扉を閉めて俺の寝ているベッドの側までやって来た。
窓のすぐ下にあったパイプ椅子を広げそれに座ると、
雪菜はじっと俺の顔を見た。
「な、なんだよ」
「お母さんから私の携帯に電話があってね……」
「あぁ……で、わざわざ学校帰りに見舞いに来たの?」
雪菜の制服を指差しながら俺が尋ねた。
そんな感じかな、と雪菜は答えた。
「良かった……生きてたか」
雪菜は、穏やかな表情をしていた。
「人を勝手に殺すなよ」
「いや……朝があんなんだったから、死なれたら後悔するなって」
目を伏せながら雪菜は言った。
あまりに真剣な表情をしていたので、俺はおかしくなって吹き出して笑った。
「なんでだよ、意味分かんねぇ」
「こんな生意気な奴でも、一応可愛い弟だからね」
どうやら本音らしかった。
そんな風に思われていたなんて意外だった。
なんだか恥かしい気さえしてくる。
「生意気は余計」
「あんたから生意気を取ったら何が残るのよ」
これはいつもの雪菜の台詞だった。
俺は再び小さな笑みをこぼした。
「まぁ、検査の結果異常はなかったらしいし、心配しなくても良いよ」
「そう、なら良かった」
窓から差し込んだ夕日が、雪菜の肌を仄かに照らしている。
眩しそうに左目をしかめながら、
雪菜は話を続けた。
「そういやあんた、彼女居るの?」
「はっ?」
俺は思わず聞き返した。
ついさっきまで由衣がこの病室に居たし、
というより今日長年(は言い過ぎだが)の望みが叶ったばかりだったため、
過剰に反応してしまった。
雪菜は、ちょっと不思議そうに笑った。
「いや、さっきお母さんにそう聞いたから」
「は?……あのババア、なんて?」
「ババアとか言わないの」
雪菜は、眉をしかめながら、そしてすぐ真顔に戻って言った。
「可愛らしい声した女の子から、藤崎君が倒れてどうのって電話がかかってきた、
って聞いたからね。その女の子、彼女なのかなって私が勝手に思っただけ」
由衣のことだ、と直感で気付いた。
まぁ他に該当する女の子なんていないので当然と言えば当然なのだけれど。
「一応、ね」
俺は正直に答えることにした。
雪菜が俺の体の心配をしてくれているというのが
なんとなく分かるだけに、正直に話しても良いかなと思えたからだ。
「やっぱ、彼女なの?」
「まぁね」
照れながら俺が答えると、雪菜はニヤリと唇を上げた。
──何か嫌な予感。
「ははぁ、そうかそうか、お前にも彼女いたのか」
──あれ、姉ちゃん、なんか急にキャラがいつもの感じに
戻ってるんですが、気のせいですか。
「あはははは、そうかそうか、彼女ねぇ」
──なるほど。
結局は俺を弄りたかった訳ね。
で、俺が口を滑らすまでは猫被っていたと。
──まんまとハメられた。
──ところが、意外にも雪菜はそれ以上のことを何も尋ねては来なかった。
「そっか……」
最後に雪菜は、何故か寂しそうにそう呟いた。
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