時の欠片(5)
2008/02/03 公開
「はうあっ、あ、あれ、私何言って……ごごごごご、ごめんなさい、
なんか、私、あれ、違うの、いや、違うくないけど、その、」
──由衣ちゃん、顔、真っ赤だぜ。
ぐはっ。
幸せ過ぎてまた気を失いそうなんだが。
もうやべーやべー。
ってか、医者よ、その辺にいっぱいいるだろ、病院なんだし。
とりあえず聞いてくれ聞いて下さい、ってか聞け。
俺の心臓がやばいことなってるんですが、大丈夫ですかね。
え、病気ですか?
恋の病?
あ、なるほど。
「ごめん、藤崎君それどこじゃないのにね、私、もうほんとに何が何だか、」
──由衣は、まだテンパっていた。
落ち着け。
とりあえず俺が平静を装ってだな、話はそれから──
「お、俺みょ……」
──噛むな、馬鹿。
もう一回やり直し、テイク2。
「俺も、だよ」
さっきまでマシンガンのように喋り続けていた由衣の口が動きを止める。
相変わらず顔は真っ赤だが、俺の一言で少し我に返ったようだった。
むしろ、俺の発言の意味を理解出来ていないようですらある。
だから俺は、もう一度言い直すことにした。
──なんだか、やっと冷静に舌が回るようになってきた。
「俺も、好きだよ」
一瞬、沈黙があった。
「ウソ……」
「ホント」
「……ホントに?」
「ホントに」
由衣の緊張が、一気に解けていくのが手にとるように分かった。
「……うん」
「俺と……付き合ってくれますか?」
「……うん」
再び訪れる沈黙。
今度は、さっきのそれよりも長かった。
端から見れば、男女二人組が黙って向かい合っているなんて、
さぞ怪しく見えたことだろう。
しかし、そんなことはどうでも良かった。
ただ黙って向かい合っている。
それだけでもう、十分幸せじゃないか。
そう思えた。
これから何十年と生きていくうちに、そんなこと、些細なことだと思うようになるかもしれない。
それはそれで寂しい気もしたが、今はそれでも良いと思う。
今が良ければそれで良い。
うちの父親が聞けば、この若造が、と憤慨されそうな言葉かもしれなかったが、
そんなことは関係ない。
親友の玉木ですら、嘲笑うかもしれない。
理科系眼鏡をくいと上げて、
“そんなこと言うとお前の将来は住む家のないホームレス確定だな。
良かったじゃないか、占い師なんて居なくても分かりやすい未来で”
なんて毒舌を吐くに決まっている。
でも、あいつはそれでいて良い奴だから、
今晩は俺の恋愛成就を記念して一日中飲み明かしてくれるに違いない。
あぁ、でも今日は入院だったな、そういや、と思って俺は少し鬱になる。
何を好き好んで初彼女が出来た記念日の夜を病院なんかで過ごさないかんのだ。
まぁ、仕方がないことではあるのだが。
──当然、こんな様子だから、この先の不幸な出来事なんて、俺は考えもしていなかった。
逆に、こんな素晴らしい日にこれから不幸な目にあうんじゃないかなんて、
そんなことを考える奴なんてゆめゆめ居るはずもない。
だが、神様は不公平だった。
この日を境に、俺は悲しい結末へと歩みを進めることになっていた。
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