時の欠片(1)
2008/02/02 公開


犯罪者になるには、何をすれば良いんだろう。
余計なことばかり言って俺を苛立たせる父親でも、
刃渡り三十センチくらいの出刃包丁で手っ取り早く刺し殺してしまえば良いんだろうか。
それとも、コンビニで店員や監視カメラの目を(もといレンズを)盗み、
万引きでもしてしまえばそれでも十分なのかもしれない。

俺は考えていた。
中三の時に悩みに悩んだ進路のことよりも、ずっと真剣に考え込んでいる自分がいた。
ふと俺は、おかしいのだろうか、何を悩んでいるんだろう、と我に返る。
そして同時に、自分自身が怖くなるのがいつものパターン。
今日この日もそうだった。

──二重人格。

こういう状態に陥る度に俺の脳裏を掠め、
吐き気を催すくらい胸糞悪い気分にさせてくれる言葉だった。

俺の中に、誰も知らないもう一人の俺が居る──

認めたくなかったが、いつしか俺はそう考えざるを得なくなっていた。
そんな風に思うのには、理由があった。
犯罪者になる方法を考えている時、決まって何か囁く声が俺の脳裏に聞こえて来るのだ。

“ゆう、起きてよ”

こんな具合に。
──ん?
なんか違う気がするが。気のせいだろうか。
とにかく俺は、その不可解な声の正体を……

「ゆうくん!」

突然パコッと、何か柔らかいもの(多分スリッパ)で叩かれる感覚が襲いかかる。
気がつけば、目の前に鬼が立っているのが見えた。
──よく見ると、鬼のような形相をした雪菜だった。
俺の1つ年上の姉だ。

「痛ぇな、なんだよ」

眠い目を擦りながら、俺は起き上がる。
──眠い目?
そうか、今まで俺は寝ていたのか。
気付かなかった。あまりにリアルな夢だった。

「あんた、今日から期末試験でしょうが」

「っるせえな」

「あ、人がせっかく起こしてやったのに、もう知らない、あんたなんか一生寝てろ。それから留年して二つ年下になれ」

怒られた。しかもひどい言われようだ。

「すいません、起こしてくれてありがとうございました、お姉様」

棒読みに俺が言うと、雪菜は眉を吊り上げて俺を見た。

「生意気な奴」

小さく溜め息をついて、姉は部屋を出て行った。
っていうか、勝手に人の部屋に入って来るなよ、雌豚め。
神聖なる俺の部屋に入って良いのは、美人な(将来)彼女(となるであろう女)だけと決めているのだ。

──まぁ、裸でも語らいあえるほどの俺の大親友、玉木に言わせれば
姉は相当の美人の部類らしいのだが、俺に言わせれば玉木の目が歪んでいるとしか思えない。
あれが美人なら──っと、片思い中の少女の容姿を思い出して、俺は顔を赤くする。
変な妄想スイッチまで入ってしまったからだ。
いかんいかん。期末遅刻したら、由衣ちゃんに嫌われてしまう。

「不真面目な人は、嫌いよ」

なんて哀れむ目で俺を見る由衣ちゃんの姿が浮かぶ。
やべーやべー。

俺は大慌てで制服に着替えると、その勢いを保ったまま部屋を飛び出した。

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