ジョーカーと僕のカノジョ(4)
2007/10/28 公開
翌朝、香苗はやけに忙しそうにしていた。
言ったじゃない、今日香月が来るって、もうすぐ来るのよ──
そういえばそうだったな、と僕は記憶を辿りながら頷いた。
ふと、掃除をする香苗の左手を見た。
昨日の指輪がハメられていて、あれが夢じゃなかったのだと安心した。
僕はニヤニヤしていると、香苗がそれに気付いてニヤニヤと笑った。
左手の薬指を見せびらかすようにしながら、
掃除の邪魔だからあっち行っててよ、と恥ずかしそうに言った。
はーい、と苦笑を浮かべながら返事をした僕は、コタツのある隣りの部屋に移動した。
時計を見ると、一時半を回っていた。
暇だったので、僕はテレビの横に置いていたトランプを手にした。
ダイソーのトランプではなく、何枚かカードが失くなっている方のトランプだった。
箱を開けて、僕は驚いた。
カードが見て分かるほどに少なくなっていた。
ハートの3と6、スペードの3、ダイヤの6、これが以前失くなっていたカードだったが、
さらにスペードとハートのA、ダイヤとクローバーの5、ハートとクローバーの8、さらには9とJは四枚ともなかった。
僕はあることに気がついた。
それぞれ、二枚一組、計九組のトランプが失くなっていた。
そして、僕はさらにあることに気がついた。
今まで失くなった物は台所の椅子が二脚、ゴミ箱が二つ、マフラーも二つ、CDも二枚、マグカップも二個なくなっていた。
全て二つずつだった。
この奇妙な偶然に僕は戸惑った。
いや、もしかして偶然ではなく必然なのでは、とさえ思った。
そういえば、この間、キュウリが三本のうち一本を残して、即ち二本が失くなったような気がする。
いや、その前の日は歯ブラシが二本失くなった。
まだある、買い置きのシャンプーだ。
確か二、三買い置きしていたのに、と香苗は言っていた。
──買い置き?
そうだ、そういえばカップ焼きそばも失くなったと言っていた。
不自然な現象は、ずっと前から起こっていたのだ。
そして、失くなった物を指折り数えていた僕はまた衝撃的なことに気付いた。
焼きそばから数えて、ちょうど九組の物が失くなっていた。
それは、失くなったトランプの枚数と一致していたのだ。
あの日から、何か僕らは不可解な現象に巻き込まれたのだ。
しかし、何故?
一連の流れを考えて、僕は一番最初に失くなった物を思い出した。
ジョーカーだ。
あの日僕らは、ババ抜きをしていた。
しかし、ジョーカーが足りなくて、僕らはそれを中断せざるを得なかった。
ババ抜きは、二枚一組をペアとして手札を減らして行くゲームだ。
僕たちはジョーカーを失くした。
だから、あの日のババ抜きはまだ決着がついていない。
ババ抜きは、どちらかの手札がジョーカー一枚になるまで続く。
つまり、ジョーカーを探し出してどちらかが勝負に“負け”ない限り、毎日何かが失くなって行く──
まさか。そこまで考えて、僕は馬鹿らしくなった。
そんな意味不明で非現実的なことがある訳がない。
そうだ。そうに決まっている。
深く深呼吸をして、トランプを片付けた。
時計を見上げると、もうすぐ二時になろうとしていた。
そういえば、ババ抜きをしていたあの日も時計を見ると二時頃で──
僕はハッとした。
台所の椅子が失くなったのは、一時半から二時半の間だった。
僕らの目の前でキュウリが消えたのも、確か二時頃だった。
もしかして、二時くらいになると物が消えて──
馬鹿らしい!
そんなことあってたまるか!
僕はブンブンと首を振って、余計な雑念を振り飛ばそうとした。
その時だった。
ピンポーン──
玄関のチャイムが鳴った。
隣りの部屋から、あ、香月が来た、と言う香苗の声がした。
次いで、玄関の方へ走る足音が聞こえた。
僕は、最悪なことに気が付いた。
もうすぐ、二時になる。
そして、香苗と香月は、双子の姉妹だ、ということに。
背筋が凍りそうになった。
香苗が──消える?
玄関の開く音が聞こえた。
香苗に似た、可愛らしい声が聞こえた後で、何かが落ちる音がした。
金属音だった。
急に静かになった。
心臓が止まりそうになった。
深く息を吸って、僕は玄関へ向かった。
誰もいなかった。
ただ、開け放たれたままになった玄関が、風でゆっくりと閉ざされた。
扉の下を見ると、何やらキラリと光る物が見えた。
確かめるまでもなかった。
胸が張り裂けそうなほどに痛むのを感じた。
見たくなかった。
信じたくなかった。
何も考えられなくなった僕は、ゆっくりと目を瞑った。
それは、紛れもなくあの指輪だった。
ジョーカーと僕のカノジョ 完
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